大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(ラ)277号 決定

抗告人

富士海運株式会社

右代表者代表取締役

柳澤昇

右代理人弁護士

中村誠一

菊池美一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原決定を取り消す。原決定添付の別紙一記載の船舶(以下「本件船舶」という。)に係る同別紙二記載の事故から生じた物の損害に関する債権について責任制限手続を開始する。」との裁判を求めた。抗告の理由は、要するに、本件船舶は、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下「船主責任制限法」という。)二条一項一号所定の「航海の用に供する船舶」に該当するから、同法所定の責任制限手続の開始を求めるというものである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も、平水区域のみを航行する船舶は、船主責任制限法二条一項一号所定の「航海の用に供する船舶」に該当しないから、本件申立ては理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、補正するほかは、原決定の理由説示と同一であるから、これを引用する。

船主責任制限法二条一項一号所定の「航海」は、商法六八四条一項の「航海」と同義に解すべきものであるところ、同法五六九条で湖川、港湾における運送は陸上運送の範囲に属するものとされていることとの対比上、湖川、港湾における航行は前記の「航海」に含まれないものというべきである。そして、商法施行法一二二条に基づき、明治三二年逓信省令第二〇号一項が「湖川、港湾ノ範囲ハ平水航路ノ区域ニ依ル」と定め、船舶安全法三七条で「平水航路」を「平水区域」と読み替え、同法施行規則一条六項が平水区域の具体的範囲を指定している。以上によれば、平水区域の航行は、船主責任制限法二条一項一号にいう「航海」に当たらないものと解すべきである。しかして、本件船舶の裸傭船契約書(疎甲第三号証)によれば、本件船舶の航行区域は「東京湾平水区域」とされているものであるから、本件船舶の航行は、「航海」に当たらないものと認めるのが相当である。

抗告人は、平水区域のみを航行する船舶も船主責任制限法二条一項一号所定の「航海の用に供する船舶」に該当すると縷々主張するが、いずれも独自の見解を前提とするものであって、採用することができない。

三  よって、原決定は相当で本件抗告は理由がないから棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宍戸達德 裁判官 佃浩一 裁判官 西尾進)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例